座談会 「アフリカへ毛布をおくる運動」最終年を迎えて 運動との出会い、これまでの学びと今後の願いを語り合う

今年の収集キャンペーンをもって38年の歴史に幕を下ろす「アフリカへ毛布をおくる運動」。1984年の運動スタート以来、さまざまな団体、個人の参画によって継続されてきた。運動の締めくくりにあたり、啓発や収集、配付ボランティア隊など、さまざまな形で長年運動に携わってきた立正佼成会のボランティア4人に登場してもらい、取り組みを振り返ってもらった。(文中敬省略)

出席者
中村 浩子さん(50)茨城県
藤井 孝征さん(81)神奈川県
安田 幸平さん(34)石川県
喜田 安広さん(74)愛知県

◆転機になった出来事

――『「アフリカへ毛布をおくる運動」(以下「アフ毛」)との出会い』について教えてください

【喜田】
私は愛知県にある立正佼成会安城教会に所属しています。教会で支部(地域ごとの組織)の壮年部長として活動していた30年前、青少年を育成する取り組みの一つとしてアフ毛に携わるようになりました。初めは、支部の会員さんから毛布を集めたのですが、5年もすると会員さん宅の毛布が底を突いてしまった。これではいけないと、一般宅への声かけを始め、地元紙や町内の回覧板に広告を出すなど、外に向かって発信するようになりました。以来、地域の皆さんの協力を頂きながら、毎年休まず毛布をおくってきました。

【安田】
僕は正直なところ、数年前まで積極的に運動に関わっていませんでした。転機になったのは5年前、アフリカで毛布を配付するボランティア隊に参加したことです。立正佼成会金沢教会の関戸快枝教会長さんがそのボランティア隊の隊長を務められたご縁から、声をかけて頂きました。
実際にアフリカの過酷な生活状況を見て、現地の方と触れ合いながら毛布を手渡す中で、それまでただの寝具としか思っていなかった毛布が、アフリカの人にとっては自分や家族の命を守る大事な存在なのだという認識に変わりました。そこから、教会の青年部活動の中心にアフ毛を置き、地域への声かけや収集に取り組むようになりました。

【中村】
物心がついた時から、わが家では信仰熱心な母がさまざまな社会貢献活動をしていて、アフ毛もその一つでした。子供の頃はそんな母の手伝いをするような感覚で参加していたように思います。そんな私が主体的に取り組むようになったのは、主人がボランティア隊としてアフリカに行ったことがきっかけです。
信仰のない家庭から婿養子に来た主人が、それも新婚1年目でアフリカに行き、現地の状況やそこに暮らす人々の生の声を見聞きしたことで、母のような熱を帯びて帰ってきたのです。「まだまだ毛布が足りないんだ」と訴える主人の熱意に背中を押され、家族で目標枚数を決めて本格的に取り組み始めました。

【藤井】
私は長年、港湾関係の仕事をしてきました。青年時代から佼成会の活動をしてきましたが、アフ毛の取り組みが始まった当初は仕事も忙しく、運動にはあまり関わっていませんでした。ですが、東京の埠頭(ふとう)で勤務していた時、事務所の隣が日通さん(日本通運株式会社)の倉庫でした。ある時、毛布がたくさん集まってきているのに気づき、もしやと思い「これはアフリカへ行く毛布ですか?」と聞いたら、そうだと言うじゃないですか。その時は自分も立正佼成会の会員で、青年たちが一生懸命集めているからどうぞよろしくと、日通の方と話したことを覚えています。
私自身が運動に携わったのは、平成15年に立正佼成会の大和教会に移り、対外的な活動を担う渉外部長を拝命してからです。大和教会では地域ごとに運動を推進する組織があり、行政と連携しながらタウン誌に広告を出したり、ボランティアのネットワークに加わったり、さまざまな広報活動を展開しています。私も、ご縁を頂いた議員さんや社会福祉協議会の方に運動の趣旨を伝え、収集イベントや毛布に縫い付けるメッセージ書きなどに携わって頂きました。

◆教会、地域の枠を超えて

――運動に取り組む中で印象に残っている出会いやエピソードはありますか

【喜田】
10年前、教会の渉外部の役を頂いてすぐ、地元の議員さんに運動の趣旨やアフリカの現状をお伝えしたことがあります。その議員さんが、活動に協力したいと、市のクリーンセンター(ごみ処理場)に話を通してくださり、毛布を譲って頂けるお手配になりました。
センターに持ち込まれる大量のごみから分別された毛布を持ち帰って、状態を確認するのですが、中には汚れや傷みのひどいものもあり……。センターに戻すわけにもいかず、頭を悩ませました。ある時、仕事で関わる業者に毛布を使うかと聞いてみたら、サッシの運搬や荷の梱包(こんぽう)などでかなりの需要があることが分かったのです。そこで、規格外の毛布は運送業者や引っ越し業者に提供することにしました。
地域の皆さんの善意で集まった毛布を、アフリカに届けるだけでなく、再び地域に還元する。そうやって教会や地域という枠を超えて継続してきました。今年で運動が終了することを残念だという声が、佼成会の会員さんだけでなく地元住民からもたくさん上がっています。

【安田】
喜田さんのお話を聞き、モザンビークでのあるエピソードを思い出しました。現地で、障害児や孤児が預けられている施設を訪ねたのですが、子供たち一人ひとりに毛布を渡す中で、なかなか受け取ってくれない女の子がいました。どうやら、他の子に比べて、自分の前に差し出された毛布の色が地味で、悲しかったようです。その時は、毛布に縫われたメッセージを見てもらい、最後は喜んで受け取ってもらいましたが、その様子に私はハッとしました。
アフ毛だけでなく、「親子で取り組むゆめポッケ」(立正佼成会の社会貢献活動)や募金などもそうですが、受け取る側にも感情があるという当たり前のことを、つい忘れがちです。毛布は枚数も重要なので、余計に一枚一枚に意識を向けることが難しい。受け取る相手の気持ちに寄り添って活動できていたか、ボランティアや社会貢献活動をする上で大事な視点を学んだ体験でした。

【中村】
私も主人から、実際に毛布が足りない現実を目の当たりにしたと聞きました。ある配付拠点に、隣町から少女とおばあさんが3日かけて歩いてきたそうです。しかし、彼らが住むその町は配付対象に含まれていないため、毛布が足りない。それでも、スタッフみんなで協力して枚数を調整し、少女に渡すことができたそうです。
この主人の報告を聞いて、家族みんなの意識が変わりました。それまでも家の毛布を支部に出すなど協力をしてきましたが、わが家で「百枚」を目標に取り組むようになったのです。さらに数年後、母はなんと、その目標を「千枚」に変えました。あまりの多さに、最初はわが家だけでは無理だと戸惑いましたが、一度やると決めたら突き進む母の勢いに押され、気がついたら家族みんなが全力で収集に向かっていました。
メッセージ書きや縫い付け、梱包作業などは、私の所属する立正佼成会土浦教会の支部の皆さんが何日もかけてわが家に通ってくださり、仕上げることができました。
わが家の子供たちは、最初は自分の使っている毛布よりも新しい毛布が家に届くので、「これがほしい」と言って困った場面もありましたが、最後には「やっぱり全部寄付する」と言って手放してくれました。運動を通して子供の中にも、人を思いやる心を育てて頂いているのだと感じました。

【喜田】
地域の中でも、毛布の趣旨に賛同して協力してくださる方は、人の役に立ちたいという熱意を自然と発揮できる心のきれいな方だと思います。佼成会の庭野日鑛会長先生が「人を植える(育成する)」ということを教えてくださいますが、世界の遠い国の誰かを思って行動できる、そんなきれいな心を持つ人、さらにはその心を発揮できる場を、家庭や地域社会の中で育んでいく、それが信仰を頂く私たちのこれからの責務ではないかと思っています。

◆育んで頂いた「思いやりの心」

――「私たちの責務」というお話が出ましたが、今後、運動を通して得た経験や学びをどう生かしていきたいですか

【藤井】
私たちは日ごろから月に数度食事を抜いて献金する「一食を捧げる運動」に取り組んでいます。佼成会ではアフ毛も一食運動と同じ社会貢献活動として、相手の苦しみや悲しみに共感する「同悲同苦」の精神を大事にしています。この「同悲同苦」という共感力、地域と教会が一体となって社会、そして世界に貢献していくという形は、是が非でも次の世代にバトンタッチしていかねばならないと感じています。
アフ毛では「アフリカ」という特定の地域に対して支援を行ってきましたが、世界には貧困や環境破壊が進む国、ウクライナとロシアのように紛争が続く国がたくさんあります。アフ毛で磨いた奉仕の精神と世界を俯瞰(ふかん)する視野を生かし、信仰者としてできる社会貢献活動をますます真剣に探求していきたい、そう強く思っています。

【安田】
ロシアのウクライナ侵攻に対し、先日、世界と日本がオンラインでつながり、早期終結を願って祈りが捧げられました。僕も参加しましたが、遠く離れた他国で起きている問題を自分事として受けとめ、何かできることはないかという視点で行動できるのは、ボランティア隊に参加し、アフリカの現状を学び、毛布の収集に取り組んだからです。
佼成会を創立した庭野日敬開祖さまは、法華経に説かれる「一乗」(仏の真実の教えは一つであり、それによってすべての人が成仏できると説く)の教えを通し、私たちにアフ毛やゆめポッケ、ユニセフ募金など、さまざまな社会貢献活動を伝えてくださいました。宮沢賢治の「世界がぜんたい幸福にならないうちは個人の幸福はあり得ない」という言葉にもありますが、佼成会の社会活動で培った「地球上の全ての人間が一つの家族であり、自分の兄弟姉妹なんだ」という意識を、僕自身の信仰活動、日常生活の主軸にしていきたいです。

【中村】
ここ数年は家業の料理屋が忙しく、以前のように毛布の収集ができないため、輸送費の献金で協力してきました。しかし、一昨年から続く新型コロナウイルス感染症流行の影響で、うちのお店でもお客さまが激減し、大変な状況が続いています。今年は献金なんて到底無理だと思っていましたが、みんなで力を合わせて困難に立ち向かう中、不思議と、私たちの心に人さまを思う気持ちが強まってきたのです。大変な状況は変わりませんが、欲をグッと我慢して、生活を工夫し、今年もどうにかまとまった輸送費を準備することができました。この運動のおかげさまで、逆境の時でも、自分の置かれた場所で、自分にできる行動を続ける、そんなわが家にならせて頂けていることに、深く感謝をしています。

【喜田】
今日集まった4人は、今まで会ったことも、話したこともなく、それぞれに運動との出会いも違っています。
ですが、取り組みを通して、自分たち自身が人の幸せを祈る心を育んで頂いたという感謝を、共にかみしめさせて頂いたように思います。これはわれわれだけでなく、アフ毛に情熱を注いできた全ての人に共通する思いではないでしょうか。この思いやりの心が全世界に伝わるよう、次なる行動をまた皆さんと見つけていきたいです。